『カンガルー・ノート』
安部公房、最後の長編。(遺作除く)
読んでいると、夢を見ている感覚。主観的に構築され展開し転換してゆく世界、世界、世界。
カンガルー、かいわれ大根、垂れ目の少女、そして死。数々の場面に通底する要素。これらがこの小説のテーマだ!というわけにはいかない。かいわれ大根がテーマの物語なんか誰が読むだろう。かいわれ大根はかいわれ大根でしかない。かいわれ大根がかいわれ大根のままで世界を展開させてゆく。そこに意味を見出すのはわれわれ読者の仕事。
最後の場面で箱男のモチーフからの援用があるのも安部公房らしい。彼の小説世界は一つの作品で完結しない。赤塚不二夫のようなものか。読めば読むほど汲み出せる無限の情報。これだからやめられない。
『カンガルー・ノート』安部公房, 1991, 新潮文庫